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スマートな複合マテリアルの構築に向けた研究

「スマートゲルおよび有機無機融合ソフトマテリアル」

 高分子ゲルは、この30年程度の間に、急激な進歩を遂げた高分子科学の研究対象の一つです。高分子ゲルとは、“高分子が架橋して3次元網目構造を形成し、溶媒を吸収して膨潤はするが溶解しない、固体と液体の中間に属する状態をとる物質”と定義されています。高分子ゲルの特性(液体の半固体化、徐放性、分子ふるい能、生体適合性、レンズ機能など)を利用した製品は、既に我々の生活の中に数多く存在しており、基礎研究に関しても、最近の測定手法の発展によって、多くの知見が得られるようになってきました。

 我々のグループでは、環境変化や特定の分子を認識できるセンサー、バイオマテリアルに利用可能な力学特性を示すなど、従来の高分子ゲルよりも、さらに高機能なスマートゲルおよび有機無機融合ソフトマテリアルの研究に取り組んでいます。

Polyrotaxane
ポリロタキサンという環状と棒状の分子を組み合わせた超分子の一種を架橋剤に用いてゲルをつくると、非常に良く伸びるゲルになります。
fastResponceGel
高速応答性を示すゲル:黒く見える部分は、細孔を施したゲルで、その下の透明な部分は、従来のゲルです。温度などの環境変化に応じて、前者は後者に比べて、1000倍以上の速さで形状を可逆に変化させます。
hydrogel
ポリロタキサンを架橋剤に用いて調製したハイドロゲル:カッターでもなかなか切れないのです。

「構造発色性材料」

 色素や顔料を用いずに、光の波長サイズの微細構造によって発色する現象を構造性発色(もしくは構造色)と言います。従来、“構造色”は、“可視光の波長サイズで屈折率が周期的に変化した材料から観測される角度依存性のある鮮やかな色”と説明されています。

 我々のグループは、この従来の説明を覆す二つの発見をしました。

 一つは、構造色は角度依存性を示さない場合もあるということです。我々は、屈折率の変化に短距離秩序があるような系が、角度依存性のない構造色を示すことを見出しました。そして、もう一つは、鮮やかな構造色発現のためには、光の波長サイズの微細構造の存在に加えて、黒色物質の存在が重要であるということです。一般的には、光の波長サイズの微細構造があることが、構造発色のためには必要な条件なのですが、それだけでは色鮮やかな構造色とはならないことを、多くの例を示すことで説明したのです。これらの研究の一環として、申請者は白い材料と黒い材料から、鮮やかな有彩色を示す色材が構築できることも示したのです。
 構造発色性材料は、安全で安価な材料からも構築でき、非退色性になることから、新しい色材としての応用を検討しています。

PolymerGel_waveLength-size_pore
高分子ゲルに、光の波長サイズの細孔をほどこすと、その大きさに応じて異なる色を示すようになります。
PolymerGel_structuralColor
高分子ゲル内にコロイド粒子を分散させると、構造色を示すようになります。高分子のしなやかな動きに応じて、その色は虹のように変化します。
structuralColor_painting
白色と黒色の微粒子を用いて描かれた日本画:微粒子の大きさを変えれば、様々な色となります。
Temperature-responsive
単分散なゲル微粒子の集合体が示す構造色:ゲル微粒子の濃度を変えて、ゲル微粒子間の平均距離を変えることで、干渉性散乱を示す光の波長が変化するため、見た目の色も変わります。

「機能性有機無機融合コロイド粒子」

 直径が1 nm〜1 μm程度の大きさの粒子をコロイド粒子と呼びます。コロイド粒子は、その形状が真球化(単分散化)、異形化、多孔性(中空化)、複合化、表面反応性賦与等に分類され、化粧品の添加剤、診断薬担体粒子、医薬・医学、液晶スペーサー等情報表示材料及び記録材料、プラスチック用添加剤等、幅広い分野に応用されています。

 我々のグループでは、光学的機能、環境応答、分子認識などを示す機能性有機無機融合コロイド粒子の研究に取り組んでいます。

photonic_ball
フォトニックボール:粒径の揃ったコロイド粒子が集合することで形成した光学機能を示す粒子
coreShell_particles
無機微粒子をコアとして、分子量の揃った高分子がブラシ状に生えたコアシェル型微粒子:環境の変化に応じて、粒径や吸着能を変えます。
coloidal_particles
異なる2成分から形成されたコロイド粒子(ヤヌス粒子):このヤヌス粒子は、磁場に応答して回転する性質を示します。
triPore
様々な微粒子を調製するための細孔が連なった鋳型:穴の中に、隣の穴に繋がった細孔が三つ空いていることで、微粒子を調製するための溶液が浸透できるようになっています。

「バイオインスパイアード材料」

 生物や植物、もしくは、それらの有する材料や分子の構造、および、機能に倣うことで、生体の機能を凌駕するような人工材料が得られます。

 我々のグループでは、生体の構造や機能をヒントに、無機材料、有機材料、生体材料を複合化することで、バイオセンサー、バイオメカニカル素子、バイオオプティカル材料などの開発に取り組んでいます。

bio-inspired_bird
bio-inspired_dragonfly
bio-inspired_baboon